環境放射線情報対策ニュース12
2011年3月、原発事故後の東京大学キャンパスにおける環境放射線情報は、『環境放射線情報対策ニュース』12にあるように田中知教授を責任者として行われた。
この田中知教授が責任者となって提示した東京大学の環境放射線情報がどのような問題を起こしたか。鬼頭秀一名誉教授の「福島原発事故由来の低線量被曝問題にかかわる科学者の倫理」(福島大学原発災害支援フォーラム+東京大学原発災害支援フォーラム)編『原発災害とアカデミズム: 福島大・東大からの問いかけと行動』(合同出版) http://memorandum.yamasnet.com/archives/Post-3999.html には、次のように記されている。
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大学における科学者の倫理━━大学設置の保育園除染の実践から
科学者の倫理は、社会に向かってさまざまな社会的な問題にかかわり発言をする場合だけでなく、大学内部でのさまざまな問題における科学者の倫理としても問われている。安全バイアスの構造的な問題は、その中にも表現され、さまざまな問題を引き起こしている。また、大学自体における放射線被曝の問題が起こったとき、そこにおけるリスクコミュニケーションのあり方という点でも、大学の科学者は今度は、第三者的な立場ではなく、大学の管理者としての責任の中で、リスクコミュニケーションの主体となる。科学者がいかに適切にリスクコミュニケーションの主体となりうるのか、そのことを検証して、その倫理のあり方を問うことが、社会におけるリスクコミュニケーションのあり方、そこにおける科学者の倫理のあり方にも関係しているだろう。
福島第一原発事故由来の放射性物質汚染に関しては、関東・東北8県にも及んでいるが、その中でも、千葉県柏市は、福島県以外の地域では顕著なホットスポットと言ってもいいような状況であった。東京大学も被災地のひとつであった。当初から、東京大学は、各キャンパスで放射線量を定期的に測定して公開し外部に発信していた。このことは、リスクの情報開示という点でも大変意義深いことであった。
東京をはじめとする関東圏では、今回のような原発事故による放射線量のモニタリングに関して想定されていなかったということもあり、各地のモニタリングポストは、人間が生活する区域での土壌汚染に起因する空間線量をモニタリングするためのものではなかったため、事故の直後の当時では、東京大学が逐次発表しているモニタリングポストの数値は、本郷、駒場、柏の地域での重要な土壌汚染の指標となっていた。大学が研究機関として、このように重要な情報を社会に発信していたことは、多くの人たちがそれをウォッチし、自ら測定する装置と比較するなど、重要な意味を持っていた。
しかし、柏キャンパスの数値は、0.3μSV/時を越えており、当初から憂慮するべき状況であった。東京大学の当局は当初は、柏キャンパスのモニタリングポストが高いのは、天然石由来であるとして、高い線量が観測されているが、基本的には安全であるという見解をホームページで示していた。ICRPの勧告に基づく平時の状況で年間1mSVの状態が安全であるはずであることは一般的理解であり、野外で通常の状況で少なくとも0.3μSV/時を越える状況は問題である状態は憂慮するべき状態と思われた。
そこで東京大学の教員有志で、2011年6月13日に東京大学の放射線情報のWEBの記述について、不適切であるとして、異議を申し立てることになった。しかし、その結果はかなりあっけないもので、安全であるという記述は削除されることとなった。しかし、慌てたのは、柏市、流山市、松戸市等の千葉県東葛6市の自治体である。今までは、市内の線量が高いことは公式的にも認めていたが、東京大学がその値が安全ということを根拠にそのお墨付きで健康に影響はないことを標榜していた。しかし、東京大学がWEBの放射線量の「安全」という評価を外してしまったことで、東京大学に梯子を外されてしまった状況になった。それ以後、この値が除染をするかどうかに関して、かなり複雑な様相を呈して状況が進展してきた。東京大学はそのことについても周辺自治体に大きな責任がある。(90-92ページ)
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この問題については、東京大学原発災害支援フォーラム(TGF)のウェブサイト http://311tgf.org/ に関連資料が提示されている。