九.一一以後の日本の宗教協力組織の行動

  • 「心なおしによる平和――現代日本の新宗教の平和主義」『大巡思想論叢』第16輯、2003年12月(韓国で刊行)の第1節を掲載します。


 二〇〇一年九月一一日のアメリカ同時多発テロの後、日本の宗教組織はテロと戦争の抑止を目指し積極的な行動をとってきている。そのことをよく示すのは、宗教協力組織の発言と行動だろう。神道、仏教、キリスト教、新宗教の五つの連合組織(神社本庁、全日本仏教会、教派神道連合会、日本キリスト教連合会、新日本宗教団体連合会)がさらに連合して構成されている日本宗教連盟では、一〇月一六日に理事長である白柳誠一枢機卿と他の五名の理事全員の名前で、「戦闘によらない解決を求める声明」を発表した。この時期の日本では一〇月七日に始まるアメリカのアフガニスタンへの武力介入を支持するかどうかで世論が二分していた。最大の読者をもつ読売新聞は、アメリカ支持の立場から一〇月六日の第一面のトップ記事で「対テロ 果断な行動を」という新聞社としての緊急提言を掲げていた。日本宗教連盟は日本のもっとも包括的な宗教協力組織であり、この組織がこの時期にかくも迅速に平和を願う姿勢を示したことは大いに注目される事柄だった。
 それに先立ち、早くも九月一八日、世界宗教者平和会議日本委員会は白柳誠一理事長と杉谷義純事務総長の名前で、「米国同時多発テロに対する声明文」を出している。この声明はテロに対する強い憤りと犠牲者への哀悼の思いを述べ、罪のないイスラム教徒に不当な危害が及ぶことへの憂慮を表明した後で、次のように述べている。

ブッシュ米国大統領は、テロ事件を新しい戦争と定義し、それこそ国運を賭けてその解決をはかろうとし、多くの国々の指導者もそれを支持しています。私たち宗教者は、テロ行為を憎み、二度と起こしてはならないと思考するについて人後に落ちません。犯人は厳正なる法の裁きを受けるべきであります。しかし、過剰な解決策が新たな問題を惹起したり、善良な市民を巻き込むことがないように切に要望いたします。

 すでにアメリカではタリバーンへの迅速な報復攻撃を行おうとする世論が優位を占めていたが、この声明はそれに対する懸念を表明している。そして、これに続く最後の一節は、この声明が宗教者としての立場からのものであることを明白に示す内容となっている。

最後に、今回の事件は人間が起した事件であり、決して他人事ではなく自分の問題として一人ひとりが真摯に受けとめていただきたいと思います。そして、まだ家族の安否すら確認出来ない多くの人々にお見舞い申し上げ、重ねて犠牲者のご冥福を祈るものであります。

 世界宗教者平和会議はアメリカ、日本、インドなどの宗教者がよびかけて一九七〇年に第一回の会議を京都で開き、会議の成功を踏まえて、常設機関の設置が決議されたものである。以後、四、五年ごとにルーベン、プリンストン、ナイロビ、メルボルン、ローマとリバ・デ・ガルタと世界各地で会議を開いており、一九九九年にはヨルダンのアブドラ国王がホストとなり、アンマンで開かれている。ニューヨークに国際委員会を置き、二〇〇〇年現在で、世界三五カ国に国内委員会が設置されている。アンマンでの第七回会議(WCROⅦ)には、世界七〇カ国から一、二〇〇名が参加した。
 世界宗教者平和会議は二〇〇一年一〇月二三、二四日の両日、ニューヨークでシンポジウムを開き、執行委員会名で「テロリズムを排し、正義に基づく平和を構築するために、宗教者からの緊急提言」と題された声明文を公表した。この声明はテロを厳しく非難するとともに、宗教間の融和と対話を促し、貧困と暴力と不正に目を向けるよう説き、具体的な方策として国連の特別総会を開会し、国際法に基づき、テロリズムに対抗するための包括的な国際条約を締結するよう求めている。シンポジウムのパネルディスカッションで、日本委員会の事務総長であり、天台宗の僧侶である杉谷義純は「未来を築く」と題し、テロの再発を防ぐには、(1)貧困と抑圧の追放、(2)公平な社会、(3)固有の文化伝統の尊重、の三つの方策を実現することが重要であると論じた。とくに貧困が大きな問題であることを強調して、杉谷は次のように論じている。

確かにグローバリゼーションの荒波は瞬く間に世界をおおい、特に経済的側面で多くの恩恵をもたらしたものの、一方では大きな歪みを生み、国家、地域間に甚だしい格差が生じました。又科学技術万能主義は、あちこちで伝統文化の破壊をもたらしました。このような近代文明の負の遺産は、かつての歴史上の負の遺産の発生が、戦争や違法行為の結果生じたのと異なり、合法的な政治や経済活動の結果生じたことに注目しなければなりません。すなわち、ますます富める国と貧しさが少しも改善しない国の出現は、合法的な結果であったとしても、それは人類全体の福祉の観点から見れば決して好ましいものでないことを宗教者は声を大にして叫ばなければなりません。何故ならば大きな格差は貧しい人々の絶望を生み、それがやがて怨みへと転ずるのにそう時間がかからないからです。

 WCRPの姉妹組織であるACRP,アジア宗教者平和会議は一九七六年にシンガポールで最初の会議を開き、翌年から継続的な組織となったものであるが、二〇〇二年六月、第六回目の会議をインドネシアのジョグジャカルタで開いた。その第一研究部会は「軍縮と安全保障」をテーマとしたものであるが、議長の杉谷義純は討議の結果のまとめを次のように始めている。

私たち宗教者は、いかなるテロをも容認することが出来ないことを再認識する。テロリストを自由の戦死と呼んで容認したり、テロに対する国家の報復行動もテロ行為に他ならないので、これを正当化してはならない。すなわち、無辜の市民を死に至らしめる行為は絶対に認めることは出来ない。しかしながら、私たちは中東における未来ある若者が自爆テロに走らざるを得ない現実に対し、単にテロを批難するだけではなく、宗教者として深い洞察力をもってテロの背景にも注意を注がなければならない。

 これに続いて、このまとめは南北の格差がますます広がる現実に注意を促し、人間が絶望に追いやられる状況があるとし、先進国の責任を厳しく問うている。


人間をこのような状況に追いやる行為は、テロ同様に厳しく批難されるべきである。すなわち、人権の抑圧、不平等は必ずしも専制国家ばかりが行っているのではなく、民主主義国家といわれる先進大国の行為が結果的に多くの差別を生んでいること、その国の政府はもちろん、その宗教者及び市民に対し、自分たちの国が誤りを犯していることを知らせなければならない。

 WCRPとACRPは国際的な組織であるが、その結成の過程から今日に至るまで、日本の宗教者、宗教教団、宗教協力組織はたいへん大きな役割を果たしてきた。冒頭に紹介した日本宗教連盟は、WCRPの最初の会議である京都会議の開催の母体となった宗教協力組織である。以上に紹介してきたいくつかの声明やまとめは、いずれもWCRPやその周辺の日本の宗教協力活動が、この三〇年余りの間に培ってきた思想と行動になにがしかを負っている。WCRP日本委員会を中心として活動しているこのネットワークの思想と行動は、現代日本の宗教者の平和運動を理解する上で、きわめて大きな意義をもっているといえる。
 以下では、このWCRPをめぐる平和運動の歴史のあらましを振り返りながら、その日本におけるもっとも力強いリーダーとよべる庭野日敬の平和思想と行動について述べていく。庭野は立正佼成会という独自の在家仏教教団を創設し、死後の今も多くの人々の敬意を集めている仏教者であるが、その平和思想は広く今日の日本の仏教の、また日本宗教の平和思想の特徴をよく示していると思われるからである。

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