書評:櫻井義秀・中西尋子『統一教会――日本宣教の戦略と韓日祝福』北海道大学出版会、2010年2月(『週刊読書人』2010年6月4日号)

統一教会は一九六〇年代の後半、若者への強引な宣教と反共活動で注目されるようになった韓半島由来の新宗教である。正式名称は世界基督教統一神霊協会だが、「統一教会」が略称だ。教祖、文鮮明をメシア(救世主)として尊崇し、教団が定める相手との集団結婚式を行い、「祝福」と称する。イエスには救うことができなかった人類の罪、とりわけ穢れた性的欲望故の罪を「祝福」によって清め神聖な家族生活を広め人類を救うという。

ある時期までは、「原理研究会」と称して学生らの隔離と集団生活が問題とされたが、その後、「霊感商法」とよばれた欺瞞的な布教や献金強制を行い、その違法性が裁判でも確認された。適正な睡眠時間や反省の暇すら与えず、苛酷な労働や詐欺的な行為にあたらせた法的責任も問われている。正体を隠して接近し、組織的に欺瞞を用いて信徒をふやし、労力と献金を搾り取り続け、諸方面から厳しい批判を受けてきた宗教集団が、なぜ公称数十万人の勢力を得ることができたのか。その理由を明らかにするのは容易なことではない。

 本書はこの問題に取り組み大きな成果をあげている。統一教会についての研究書は欧米に多いが、日本人信徒の内実に迫ったものはなかった。教団に批判的な視座をもちつつ組織や信徒に接近するのは容易ではなかったし、日本の新宗教研究の中では研究方法についての反省が十分ではなかった。本書は二つのタイプの人々に接近することによって、これまでの研究の限界を突破した。イ)脱会者とロ)「祝福」により韓国人と結ばれ当地に暮らす人々だ。日本国内ではジャーナリストや訴訟に関わった弁護士や批判派の宗教者による著作はあったが、学問的な手順を踏み、実証的な資料に基づく理論的考察を行った著作は初めてのものだ。本書は統一教会研究の質を格段に高めた書物として歴史的な意義がある

 虚偽や強制を正当化してきたのは、今生きる人々には過去の人々が犯した罪や贖いきれなかった負債を返す(「蕩減」)義務があるという教えだ。教祖=メシアのためにすべての財物を返していく(「万物復帰」)ことが求められる。そして日本こそメシアの国である韓国を貶めることによって限りない罪を負い、徹底的な搾取の対象に値する国だという教えが加わる。異常で違法な宣教手段がとられたのは日本の統一教会だけだが、日本こそが韓国や他国での発展に貢献した。韓国のメディアが何らかの事情により、この集団の違法性についての報道を控えてきことも比較分析の手法で示されている。

韓国男性との「祝福」を経て、当地に暮らす約七千人の日本人女性がいる。その多くが韓国農村の嫁不足の解消に役立てられたのだが、彼女たちの証言はこの宗教集団について多くの示唆を提供している。植民地時代にメシアの国を抑圧した罪を贖う(「恨みを解く」)という意識に支えられ、あまり信仰熱心ではない夫や姑に仕え、模範的な妻・嫁として称賛され、信仰的にも指導的であり続けようとしている。日本在住時のように苛酷な献金や集金労働はないが、日本の罪悪の償いという教えの内面化は深まっているかもしれない。

六〇年代から統一教会を遠巻きに眺めてきた評者には、反共主義を表に掲げていた頃の統一教会の印象が強い。統一教会を勢いづける際、反共主義に共鳴した政治家や大学教授の支援が大きかった。これは八〇年代までに刊行された統一教会関係書物に詳しい。本書とあわせて参照すれば、この宗教集団の全体像はさらに明確なものとなろう。

カテゴリー: 未分類 パーマリンク